持続可能な投資とは?金融機関が求められる「投資先の排出量」の算定方法

Finance

はじめに

近年、地球温暖化や気候変動が深刻な問題になっています。このままでは、自然環境や私たちの生活に大きな影響が出てしまいます。こうした問題を解決するために、金融機関が果たす役割が大きく注目されています。金融機関は、お金を貸したり投資をしたりすることで経済を支える一方で、地球にやさしい社会づくりにも積極的に取り組む必要があります。

特に、再生可能エネルギーや環境保護に関するプロジェクトに資金を提供することは、長期的な持続可能性を高める重要なステップです。本記事では、金融機関がどのように環境への影響を減らし、持続可能な未来を築いていけるのかを具体的に説明します。


金融機関の役割

金融機関は、企業やプロジェクトにお金を貸したり、投資したりすることで経済を支えています。しかし、その資金が環境を壊す原因にもなりかねません。例えば、化石燃料を使う企業への投資は、温室効果ガスの排出を増やすことにつながります。そのため、金融機関が環境を守るためにどのように行動できるのかが重要です。

環境を考えた投資

ESG投資という考え方があります。これは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つを大切にした投資のことです。例えば、再生可能エネルギーを使う企業や、リサイクルを進める企業に投資することで、環境にやさしい社会を作る手助けができます。Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)によると2021年の時点で、世界中でESG投資の金額は35兆ドルを超えており、この流れはますます広がっています。この成長の背景には、投資家が気候変動や社会的責任に対して関心を高めていることがあります。例えば、欧州ではESG投資が全体の投資額の40%以上を占めるというデータもあり、特に再生可能エネルギー関連のプロジェクトが資金を集めています。

また、ESG投資の成長は、金融機関が環境に配慮した投資を推進するためのきっかけとなっています。このような投資が増えることで、地球温暖化対策が進み、私たちの暮らしもより豊かになると期待されています。

気候変動によるリスクへの対応

気候変動は、洪水や干ばつなど自然災害を引き起こし、多くの人々の生活に影響を与えます。金融機関が貸し付けを行うとき、そのお金がどんなリスクにつながるのかを考えなければなりません。例えば、2030年までに地球の温暖化を抑えるためには、毎年7%ずつ温室効果ガスを減らす必要があるといわれています。この目標を達成するためには、エネルギー転換やクリーン技術の開発に重点を置いた多額の投資が求められています。このような取り組みは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示したシナリオに基づいています。


投融資先の排出量とは?

金融機関が貸したお金や投資によって、どれくらいの温室効果ガスが出ているのかを示すものが「投融資先の排出量」です。これをきちんと測ることで、金融機関が環境への影響を減らすための具体的な方法を考えることができます。

排出量の種類

温室効果ガスの排出量は、次の3つに分けられます。

  • スコープ1: 直接的な排出(工場の煙など)
  • スコープ2: 間接的な排出(電気を使うことで発生する排出)
  • スコープ3: さらに広い間接的な排出(金融機関が貸したお金による排出など)

特にスコープ3は、金融機関が環境に与える影響を測るうえで重要です。これは、金融機関が直接的に排出するわけではなく、貸し付けや投資によって関与する企業活動の排出量が含まれるからです。例えば、石炭や石油などの化石燃料を使用する企業に対する投融資は、間接的に大量の温室効果ガスの排出を支援していることになります。このため、スコープ3の排出量を削減することは、金融機関が気候変動対策に貢献するための最も重要なステップの一つといえます。金融機関の排出量の多くは、このスコープ3に含まれています。

金融機関がスコープ3排出量を削減するためには、投資先企業と協力し、環境に配慮した事業活動を推進することが必要です。


投融資先の排出量が大事な理由

お金を守るため

気候変動にきちんと対応していない企業は、将来の規制や災害で大きな損失を受けるかもしれません。そのため、金融機関がどの企業にお金を貸すかを慎重に考えることが大切です。例えば、GFANZという国際的な組織は、130兆ドル以上の資産を管理する金融機関が協力して、地球にやさしいお金の使い方を進めています【2】。具体的には、GFANZは再生可能エネルギーや脱炭素技術への資金提供を通じて、2050年までにネットゼロ目標を達成するための取り組みを進めています。また、発展途上国でのクリーンエネルギー普及を支援し、新興市場への資本流入を促進することで、地球規模での持続可能な発展を目指しています。

金融機関が環境リスクを管理することで、投資先の安定性が高まり、長期的な利益を確保できるようになります。

社会全体のため

金融機関は、ただ利益を追求するだけではなく、社会全体の利益を考える責任があります。例えば、環境への影響が少ない企業を支援することで、地球温暖化を防ぎ、みんなの生活を守ることができます。また、環境にやさしいお金の流れを作ることで、人々からの信頼を得ることもできます。


排出量を測る方法とその課題

PCAFという取り組み

PCAFは、金融機関が投融資先の排出量を測るためのルールを作っている国際的な組織です。このルールには、金融機関が投資先企業ごとの排出量を計算するための具体的な方法が含まれています。例えば、企業が使用するエネルギーや排出する温室効果ガスをもとに、投融資額に比例した排出量を算出する方法があります。このルールを使うことで、金融機関はどれだけ環境に影響を与えているかをはっきりさせることができます。現在、世界中で40カ国以上の145の金融機関がこのルールを使っています。

PCAFはFinanced Emissionsという手法をレポートで示しています。この手法は各投融資先の排出量に金融機関のAttribution Factor(持ち分比)をかけることで算出します。

PCAF Financed Emissions 

また細かい話ですが、上場企業と非上場企業でその手法は異なります。

PCAF Financed Emissions

測るのが難しい理由

排出量を測るのは簡単ではありません。例えば、

  • 正確なデータが手に入らないことがある。
  • 排出量を計算するのに複雑な方法が必要。
  • 国や地域ごとに基準が違うため、それに合わせるのが難しい。

こうした課題を解決するために、PCAFはわかりやすい方法を提供し、金融機関を支えています。

また、デジタル技術を活用して排出量データを効率的に収集する取り組みも進んでいます。これにより、金融機関が環境への影響をより正確に把握できるようになります。


世界で進む取り組み

GFANZ(グラスゴー金融同盟)

GFANZは、金融機関が地球温暖化を止めるために協力する国際的な組織です。現在、700以上の金融機関が参加しており、130兆ドル以上の資産を管理しています【2】。このお金は、2050年までに地球の温暖化を防ぐためのプロジェクトに使われます。

GFANZ-Progress-Report

また、GFANZは、新興国市場への資金提供を促進し、持続可能な成長を支える取り組みを強化しています。これにより、世界中で公平な環境対策が進むことが期待されています。

PRI(責任投資原則)

PRIは、環境や社会を大切にする投資を進めるためのルールです。2021年には、4000以上の金融機関がこのルールに従っており、121兆ドルもの資産が管理されています【1】。このルールを使うことで、持続可能な社会づくりを進めることができます。

Principles Responsible Investment

おわりに

金融機関は、私たちの未来を守るために重要な役割を果たしています。環境への影響を減らすために投融資先の排出量を測り、それを減らす取り組みを進めることが求められています。こうした努力は、地球の未来を守るだけでなく、経済や社会の安定にもつながります。

例えば、GFANZやPRIといった国際的な枠組みを活用することで、金融機関は環境問題への対応をより効果的に進めることができます。これからも、金融機関が地球にやさしい社会づくりのために貢献していくことを期待しましょう。


参考文献

  1. Principles Responsible Investment
  2. GFANZ-Progress-Report
  3. GFANZ-Progress-Report-2024